ガッチリと支柱を立てて、一安心している頃でしょうか。 トマトは環境に慣れると、恐ろしいほどのスピードで成長を始めます。「あれ? 昨日より大きくなってない?」と毎日驚かされますよね。
さて、そんな元気なトマトを観察していると、あることに気づきませんか? 太い茎(主枝)と、横に広がる葉っぱの付け根あたりから……新しい「小さな芽」が、ニョキニョキと顔を出していることに。
「あ、新しい枝が生えてきた! 元気な証拠だね」 「葉っぱが増えれば光合成も増えるし、このまま伸ばしてたくさん実らせよう!」
……もしそう思ってそのままにしているなら、今すぐストップしてください! その「優しさ」が、あなたのトマト栽培を失敗させる最大の原因になってしまうかもしれません。
「せっかく生えてきたのに、取るなんてもったいない…」 その気持ち、痛いほど分かります。私も最初はそうでした。
ですが、限られた土で育てるプランター栽培において、この「わき芽(わきめ)」を放置することは、栄養を分散させ、肝心の実を小さく味気ないものにしてしまうのです。
今回は、甘くて大きなトマトを収穫するために絶対に避けては通れない道。 「わき芽かき」のルールについて解説します。
美味しいトマトを作るために、今日は少しだけ「心を鬼」にして読み進めてくださいね。
そもそも「わき芽」ってどれ? 見分け方の基本

作業を始める前に、まずはターゲットを正確に特定しましょう。 トマトを観察すると、大きく分けて2つのパーツがあるのが分かります。
- 地面から空に向かって真っ直ぐ伸びる太い「主枝(しゅし)」
- 主枝から横に向かって伸びている「葉(葉の軸)」
「わき芽」が出るのは、この「主枝」と「葉」の付け根(V字になっているまたの部分)です。 ちょうど人間の体でいうと、腕を上げた時の「脇(わき)」の部分にあたります。だから「わき芽」と呼ぶんですね。
ここから斜め45度上に向かって、ちょこんと飛び出している可愛らしい芽。 これが「わき芽」です。
「葉っぱ」とはどう違うの?
最初は見分けがつかないかもしれませんが、よく見ると先端に小さな成長点(新しい葉の赤ちゃん)があります。 わき芽は、植物としての本能で「僕もメインの茎になりたい!」と主張しており、放っておくとぐんぐん伸びて、やがて「第2の主枝」のように太く巨大化していきます。
この「野心家な芽」を小さいうちに見つけ出すのが、今回のミッションです。
なぜ「すべて」取るのか? 3つの致命的な理由

「一つくらい残してもいいんじゃない?」 「葉っぱが多いほうが、光合成もたくさんできて元気なんじゃない?」
そう思う気持ちはよく分かります。広い畑で伸び伸びと育てるなら、わき芽を伸ばして「2本仕立て」「3本仕立て」にする栽培方法もあります。 しかし、私たちがやっているのは「プランター栽培」です。
限られたスペースで育てる場合、わき芽を放置することは以下の3つの「致命的なデメリット」を引き起こします。
理由1: 栄養が分散して「実」がまずくなる(最重要)
プランターの中にある土の量には限りがあります。つまり、トマトが使える「栄養(お財布)」には上限があるということです。
もし、わき芽を伸ばして茎や葉を増やしてしまうと、限られた栄養がそちらの成長に使われてしまいます。 その結果、肝心の「実」に回るはずだった栄養が足りなくなり、
- 実が大きくならない
- 色が薄い
- 味が薄くて甘くない という、残念なトマトになってしまいます。
美味しい実を収穫するためには、「余計な出費(わき芽)」をカットし、全ての資産を「メインの実」に一点集中させる必要があるのです。
理由2: ジャングル化して「病気」になる
わき芽は成長スピードが異常に早いです。数週間放置するだけで、どれが主枝か分からないほどワサワサと茂り、プランターの上は「ジャングル状態」になります。
こうなると風通しが悪くなり、湿気がこもります。 それは、トマトの大敵である「カビ」や「病気」、「害虫」にとって最高の住処(すみか)を提供しているのと同じです。 一度病気になると、全滅のリスクさえあります。
理由3: 日当たりが悪くなる
葉が生い茂ると、自分自身の影で下のほうの葉や実に日が当たらなくなります。 トマトが赤く美味しくなるには、たっぷりの日差しが必要です。
結論: 目指すは「一本仕立て」
以上の理由から、日本のプランター栽培においては、わき芽をすべて取り除き、主枝1本だけを真っ直ぐ伸ばしていく「一本仕立て(いっぽんじたて)」という育て方が鉄則です。
心を鬼にして、脇から出る芽はすべて摘み取りましょう。それがトマトへの一番の愛情です。
初心者でも迷わない!「芽かき」の3大ルールと例外

「よし、取るぞ!」と決心がついたら、次は実践編です。 トマトにダメージを与えないための、プロも守っている3つの鉄則をご紹介します。
ルール1: 小さいうちに「手」で取る
わき芽かきにハサミは要りません。基本は「手」で行います。
- タイミング: 長さ5cm以下(指でつまめるサイズ)のうちに見つけて取ります。
- やり方: わき芽の根元を指でつまみ、横にクリッと倒すと「ポキッ」と簡単に折れます。
【なぜハサミを使わないの?】 トマトは非常にデリケートで、「ウイルス病(モザイク病など)」にかかりやすい植物です。もしハサミの刃にウイルスが付着していると、切った瞬間に感染してしまいます。 手で折るのが一番安全で、傷の治りも早いのです。
ルール2: 「晴れた日の午前中」に行う
わき芽を取るということは、トマトの体に「傷口」を作るということです。
- 晴れた日の午前中: 太陽の光で傷口がすぐに乾き、カサブタになって塞がります。
- 雨の日や夕方: 湿度が高く、傷口がジメジメしたままになり、そこからバイキンが入って病気になりやすくなります。
人間と同じで、傷口は早く乾かすのが鉄則です。水やりをするついでに、ササッと済ませてしまいましょう。
ルール3: 迷ったら取る!
「これ、本当にわき芽かな? もしかして大事な枝?」と迷うことがあるかもしれません。 そんな時は、「迷ったら取る!」で大丈夫です。
主枝のてっぺんにある「成長点(一番新しい葉)」さえ折らなければ、脇から出ている小さな芽をいくつか間違って取ったところで、トマトは枯れたりしません。 むしろ、迷って残してジャングル化させるリスクの方が怖いです。自信を持って「ポキッ」といきましょう。
【例外1】取り忘れて「巨大化」してしまったら?
葉の裏に隠れていて、気づいたら主枝と同じくらい太く(鉛筆サイズ以上に)なってしまったわき芽を見つけることがあります。
この場合、無理に手で折るのはNGです。 太い芽を無理やりむしり取ると、主枝の皮までベロンと剥がれてしまい、大きな傷口になってしまいます。
これだけは「ハサミ」を使って、根元から綺麗にカットしてください。 ※ただし、ハサミは必ずアルコール消毒するか、熱湯にくぐらせて清潔にしてから使いましょう。
【例外2】そもそも「取らなくていい」品種もある
最近ホームセンターで人気の「矮性(わいせい)トマト」(商品名:レジナ、あまたん など)と呼ばれる、背丈が低く育つ品種は、わき芽を取る必要がありません。 苗についているタグ(ラベル)をよく見て、「わき芽かき不要」「放任栽培OK」と書かれていたら、今回のルールは忘れて、そのまま育ててあげてください。
【トラブル対応】「間違って主枝を折っちゃった!」時の裏技

「ポキッ……あっ!!」
夢中で作業をしていて、間違ってわき芽ではなく、一番大切な「主枝の先端(成長点)」を折ってしまった……。 トマト栽培あるあるですが、やってしまった瞬間の絶望感は凄いですよね。「もう成長しないの?」「この株は終わり?」と青ざめてしまうかもしれません。
でも、安心してください。全く問題ありません。 トマトの生命力は凄まじく、ちゃんと「バックアップ機能」が備わっています。
「わき芽」を新しい「主」に任命する
主枝がなくなると、トマトはすぐに危機を察知して、生き残るために次のリーダーを決めようとします。その候補生こそが、普段は摘み取っている「わき芽」です。
もし主枝を折ってしまったら、以下の手順でリカバリーしてください。
- 折れた場所の下を確認する 折れてしまった部分のすぐ下にある葉の付け根を見てください。まだ取っていない「わき芽」はありませんか?
- その「わき芽」だけは取らずに残す そのわき芽を、新しい主枝(リーダー)として育てます。
- 支柱に誘導する わき芽が伸びてきたら、支柱に結んで真っ直ぐ上へ誘導してあげてください。最初は少し曲がっていますが、成長するにつれて立派なメインの茎に変わります。
もし「全部キレイに取った直後だった!」という場合でも大丈夫。数日待てば、また新しいわき芽が必ずどこかから顔を出します。 それを1つだけ選んで伸ばせば、1週間ほどの遅れで元通り復活します。
「主枝を折ったら、わき芽で代用」。 この裏技を知っていれば、恐れるものは何もありません!
【おまけ】取ったわき芽は捨てないで!「挿し木」で増やす楽しみ

最後に、ちょっとお得な情報です。 今回摘み取ったわき芽、そのままゴミ箱へポイ……というのは、ちょっと待ってください。
実はそのわき芽、「もう一株のトマト苗」に生まれ変わることができるんです。
トマトは驚くほど生命力が強く、茎の部分を土や水につけておくだけで、そこから勝手に根っこを出して成長し始めます。 これを「挿し木(さしき)」や「挿し芽(さしめ)」と呼びます。
無料で「クローン」が作れる!
やり方は驚くほど簡単です。
- 元気な芽を選ぶ 摘み取ったわき芽の中から、茎がしっかりしている元気なもの(長さ10cm〜15cmくらいがベスト)を選びます。
- 水につける コップや空き瓶に水を入れ、そこにわき芽を挿しておきます(直射日光の当たらない明るい場所で)。
- 根が出る 早ければ3〜4日で、茎から白い根がニョキニョキと生えてきます。これを見るだけでも実験みたいで楽しいですよ!
- 土に植える 根が十分に伸びたら、小さなポットやプランターの土に植え替えます。これで「新しい苗」の完成です。
親株と全く同じ遺伝子を持つ「クローン」なので、親が美味しいトマトなら、この子も間違いなく美味しいトマトになります。
「保険(バックアップ)」として育てよう
私が挿し木をおすすめする最大の理由は、「保険」になるからです。
もし今後、メインの親株が台風で折れてしまったり、病気で枯れてしまったとしても、「大丈夫、ウチには控えの選手(挿し木苗)がいる!」と思えれば、精神的な余裕が全然違います。 また、親株よりスタートが遅れる分、秋口まで長く収穫を楽しめるというメリットもあります。
スペースに余裕がある方は、ぜひ元気そうなわき芽を1本だけキープして、水に挿してみてください。 「無限トマト」の楽しさにハマってしまうかもしれませんよ(※増やしすぎには注意です!)。
まとめ

いかがでしたか? 今回は、美味しいトマトを作るための最大の分岐点、「わき芽かき」について解説しました。
最初は、元気な芽を摘み取ることに罪悪感を感じるかもしれません。 しかし、ここまで読んでくださったあなたなら、もうお分かりですよね。それはトマトへの意地悪ではなく、「限られた栄養を、大切な実に届けるための愛」だということを。
【今回の重要ポイント】
- 栄養を集中させるために、わき芽はすべて取る。
- 小さいうちに、晴れた日に、手で取る。
- (※「矮性」や「脇芽不要」の品種を除く)
このルールさえ守れば、あなたのトマトはスッキリとした美しい姿で、太陽をいっぱい浴びて育ちます。 毎朝の水やりの時、チラッと「脇の下」を覗いてみてください。昨日はなかったはずの芽が、あなたに見つけてもらうのを待っているはずです。




コメント