今回はトマト栽培で一番の悩みどころ、「追肥(ついひ)」についてのお話です。
「大きく育ってほしい!」 そんな親心から、肥料をドバドバとあげすぎていませんか? 人間の子どもなら、たくさん食べれば大きくたくましく育つかもしれませんが、トマトの場合は少々事情が違います。
実はトマトは、もともと南米アンデス山脈という「痩せた土地」で生まれた植物。 贅沢な食事(肥料)よりも、ちょっとスパルタなくらいの粗食を好む、「ハングリー精神」の塊のような野菜なのです。
良かれと思って肥料をあげすぎると、茎ばかりが太くなって実がつかない「木ボケ(きぼけ)」という、いわば「トマトのメタボ状態」になってしまいます。これでは本末転倒ですよね。
では、いつ、どのくらいあげればいいのか? その答えは、すべて「葉っぱ」に書いてあります。
今回は、トマトの顔色(葉の色や形)を見て、必要な時に必要な分だけあげる「追肥のプロ」になる方法を伝授します。 メタボ知らずの筋肉質な株に育てて、真っ赤なトマトを鈴なりにさせましょう!
恐怖のメタボ症状 「木ボケ」とは何か?

トマト栽培で最も陥りやすい失敗、それが「木ボケ(きぼけ)」です。 字面だけ見ると「木がボケっとしている」ような可愛いイメージですが、実際はトマトにとって、そして収穫を楽しみにしている私たちにとって、非常に深刻な状態です。
症状: 体ばかり大きくなる「メタボ・トマト」
木ボケとは、肥料(特に「窒素」成分)が効きすぎて、「体(葉や茎)を大きくすること」に全エネルギーを使ってしまっている状態です。
- 茎が異常に太い: 親指よりも太く、ゴツゴツしている。
- 葉が黒々として巨大: 葉の色が濃すぎる緑色で、ジャングルのように鬱蒼と茂る。
- 実がつかない: ここが最大の問題。花が咲いてもポロポロ落ちたり、実が極端に小さかったりする。
植物には「体を大きくする成長(栄養成長)」と「子孫を残す成長(生殖成長)」の2つのモードがあります。 肥料過多になると、トマトは「栄養がありすぎて快適だ! まだ子孫なんて残さなくていいや!」と勘違いし、ひたすら自分の体を巨大化させることに夢中になってしまうのです。
さらに、栄養たっぷりのメタボな体は、アブラムシなどの害虫にとっても「最高のご馳走」。 木ボケした株には、驚くほど虫が集まってきます。
救済措置: 「木ボケかも?」と思ったら
もし、あなたのトマトがこの症状に当てはまっていたら、以下の対策をすぐに行ってください。
- 肥料ストップ! 当然ですが、これ以上肥料をあげてはいけません。水だけで様子を見ます。
- 水やりで洗い流す 少し多めに水をやり、鉢底から流し出すことで、土の中の過剰な肥料分を少し減らすことができます(※やりすぎると根腐れするので注意)。
- 【裏技】 わき芽を働かせる 通常は小さいうちに取る「わき芽」を、あえて10〜15cmくらいまで伸ばしてから取ります。 余分なエネルギー(窒素)をわき芽の成長に使わせて、株全体の栄養バランスを正常値に戻すテクニックです。
最初が肝心! 「1回目の追肥」はいつやるの?

苗を植え付けた直後、「元気に育てよ〜!」とすぐに肥料をあげたくなる気持ちはわかりますが、グッとこらえてください。 最初から入っている土(培養土)には、すでに「元肥(もとごえ)」という初期セットの肥料が含まれています。赤ちゃんにお弁当を持たせているのに、さらにステーキを食べさせるようなものです。
では、いつが「おかわり」のタイミングなのか? それは、日付ではなく、トマトの実の大きさで判断します。
合言葉は「第1段がピンポン玉」
トマトは下から順に花房(かぼう)がつきますが、一番下の段(第1花房)の実が膨らみ、「ピンポン玉くらいの大きさ(直径3〜4cm)」になった時。 これが、記念すべき「第1回追肥」のスタート合図です。
- これより早いと…: まだ体が「成長モード」なので、追加された肥料をすべて茎や葉に使ってしまい、「木ボケ」に一直線です。
- これより遅いと…: 実を大きくするためのパワーが足りず、「スタミナ切れ」を起こして実が大きく育ちません。
「実がピンポン玉サイズになった」ということは、トマト自身が「おっ、そろそろ子育て(実を太らせる作業)に本気を出さないとな!」と、スイッチを切り替えた証拠です。 このタイミングに合わせて燃料(追肥)を投下することで、スムーズに栄養が実に届くようになります。
2回目以降は「定期便」で
無事に1回目の追肥をクリアしたら、あとはリズムよくあげていきます。
- ペース: 2〜3週間に1回
トマトは次々と上に向かって新しい実をつけていきます。 マラソンの給水ポイントのように、定期的に栄養を補給して、収穫終了までバテさせないようにしましょう。
葉っぱで健康診断! 「肥料切れ」と「効きすぎ」のサイン

「2週間に1回って決めたけど、本当に今あげていいのかな?」 迷った時は、トマトの「葉っぱ」を見てください。 トマトは言葉を話せませんが、葉の色や角度で「お腹すいた!」「もう食べられない!」と猛烈にアピールしています。
朝の水やりの時に、株の頂点付近(新しく生えてきた葉)をチェックしてみましょう。
1. 【肥料不足】 空腹のサインは「バンザイ」
そろそろ肥料が欲しいよ、という時は、全体的にシュッとしたスリムな見た目になります。
- 葉の色が薄い: 明るい黄緑色になり、元気がないように見える。
- 葉が上を向く(バンザイ): 葉が茎に対して鋭角(斜め上)に立ち上がり、まるで「バンザイ」をしているように見えます。
- 茎が細い: 頂点付近の茎がほっそりとしている。
このサインが出ていたら、予定日より少し早くても追肥をしてOKです。「ご飯」を待っています。
2. 【肥料過多】 危険なサインは「羊の角」
逆に、肥料が効きすぎている時は、ゴツゴツとしたマッチョな見た目になります。これが「木ボケ」の前兆です。
- 葉の色が濃い: 黒に近いような、深すぎる緑色。
- 葉が巻く(羊の角): これが決定的な証拠です。葉の先端が内側にクルクルと巻き込み、まるで**「羊の角」**のようになります。
- 茎が太い: 頂点付近でもガッチリ太い。
この状態でさらに肥料をあげるのはNGです。 葉の巻きが取れて、平らになるまで追肥は**「おあずけ」**してください。
目指すは「水平でゆったり」
では、理想的な状態とはどんなものでしょうか?
- 葉の色は、穏やかな緑色。
- 葉がふんわりと「水平」に広がっている。
遠くから見て、リラックスして手足を伸ばしているような姿であれば、栄養バランスはバッチリです。 今のペースを維持してあげましょう。
「固形」と「液体」どっちを使う? 選び方の極意

ホームセンターの肥料売り場に行くと、袋に入った粒状のものや、ボトルに入った液体など、種類が多すぎて何を買えばいいか悩みますよね。 結論から言うと、この2つは「役割」が全く違います。
人間で例えるなら、以下のようになります。
1. 固形肥料 = 「腹持ちの良い定食」
パラパラと撒くタイプの肥料(化成肥料やボカシ肥)です。 水やりのたびに少しずつ溶け出し、ゆっくりと長く効き続けます。
- 役割: トマトの体を支える「主食」。
- 使い方: 2〜3週間に1回の「定期便」として使います。基本の追肥はこれを選べば間違いありません。
2. 液体肥料 = 「即効性の栄養ドリンク」
水で薄めて使う液状の肥料です。 速攻で効果が出ますが、そのぶん効果が切れるのも早いです。
- 役割: 今すぐ元気が欲しい時の「レスキュー」。
- 使い方: 葉の色が急に薄くなった時や、夏場に根がプランターいっぱいに回ってしまい、固形肥料を置くスペースがない時などに活躍します。
初心者のうちは、管理が楽な「固形肥料」をメインにし、緊急時用に液体肥料を1本持っておく、というスタイルがおすすめです。
【超重要】 買うべきは「トマト専用」! 成分に注意
形状よりもさらに大事なのが、中身の「成分」です。 肥料には「窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K)」の3要素が入っていますが、このバランスが命取りになります。
- 【〇 正解】 「トマト専用」または「果菜用」 これらには、実や花を育てるための「リン酸(P)」が多く含まれています。美味しい実をたくさんつけるための専用設計です。
- 【× 危険】 「観葉植物用」や「芝生用」 これらは、葉っぱを青々と茂らせるための「窒素(N)」が強化されています。これをトマトにあげると、一発で「木ボケ(メタボ)」になります。
パッケージの裏の成分表を見るのが難しい場合は、「パッケージにトマトの絵や写真が載っているもの」を選んでください。それが最強の安全策です!
【コラム】 迷ったらコレ! 初心者におすすめの「ド定番」肥料3選
成分表を見るのが面倒、どれが良いか決められない…という方は、以下の3つの中から自分のスタイルに合うものを選んでみてください。多くの先輩ガーデナーが愛用している「間違いのない肥料」です。
1. 失敗したくない派には…
住友化学園芸 「マイガーデン ベジフル」(固形)
- 特徴: 土の上にパラパラ撒くだけの粒状タイプ。
- おすすめ理由: 特殊なコーティングがされており、肥料成分がゆっくり溶け出すため、根へのダメージ(肥料焼け)が非常に少ないのが特徴です。ニオイもほとんどないので、ベランダ栽培に最適。「トマト」に必要な栄養バランスが完璧に調整されています。
2. 甘さと味にこだわりたい派には…
朝日工業 「トマトの肥料」 など(有機入り固形)
- 特徴: パッケージに大きく「トマト」と書いてある、有機質を含んだ肥料。
- おすすめ理由: 「魚粉」や「油かす」などの有機成分が入っていると、アミノ酸の効果でトマトの旨味や甘みがアップします。少しだけ有機特有のニオイがすることがありますが、「味」を追求するならコレです。
3. 緊急用&サブとして持っておきたい…
ハイポネックス 「ハイポネックス原液」(液体)
- 特徴: 青いボトルの、日本で一番有名な液体肥料。
- おすすめ理由: 即効性はナンバーワン。「葉色が薄い!」「元気がない!」という時のレスキュー用に1本持っておくと安心です。
- 注意点: 窒素分もそれなりに含まれているので、あげすぎには注意。使う時は必ず「野菜類(500倍)」の薄め方を守ってください(濃すぎると枯れます)。
どこに撒く? 茎の近くはデッドゾーン!

さあ、肥料をあげよう!と思った時、あなたはどこに置きますか? 「茎の根元に置けば、すぐに吸ってくれそう!」 そう思って、株元のすぐ近くにパラパラと撒いていませんか?
実は、茎の根元(半径5〜10cm以内)は、肥料を置いてはいけない「デッドゾーン」です。
茎の近くがNGな理由
- 根が焼ける(肥料焼け): 肥料は、いわば「塩分」の塊のようなものです。 濃い成分が根に直接触れると、浸透圧の関係で根から水分が奪われ、細胞が壊れて枯れてしまいます。
- そこには「口」がない: 茎の真下にある太い根っこは、体を支えるためのもので、養分を吸う力はあまりありません。 養分をグングン吸い上げる若い根(毛細根)は、根っこの一番「先端」にあります。
正解は「プランターの縁(ふち)」
では、根の先端はどこにあるのか? 一般的に、根は「葉っぱが広がっている範囲と同じくらい」地下でも広がっていると言われます。
プランター栽培の場合、根はすでに土の中で四方八方に広がり、プラスチックの壁にぶつかっています。 つまり、プランターの縁(ふち)こそが、最も根の活性が高い「ベストポジション」なのです。
- 撒き方: 茎から一番遠い、プランターの壁沿いにグルッと一周、または2〜3ヶ所に分けて置きます。
最後の仕上げ: 「水やり」をして初めて完了!
肥料を置いて、「はい、終わり!」ではありません。 固形肥料は、水に溶け出して初めて、植物が吸える状態になります。 乾いた土の上に置いただけでは、いつまで経ってもトマトのお腹には届きません。
追肥をした日は、必ずその上からたっぷりと水をかけてください。 水と一緒に肥料成分がじわじわと土に染み込み、待ち構えていた根っこが「いただきまーす!」と吸収してくれます。
「縁(ふち)に置いて、水をかける」 ここまでが追肥のワンセットです。
まとめ

いかがでしたか? 私たち人間は、お腹が空いたら自分で冷蔵庫を開けられますが、プランターの中のトマトは、あなたがくれる肥料だけが頼りです。
だからこそ、「あげすぎない優しさ」を持ってください。 トマトはもともと、アンデスの厳しい環境を生き抜いてきた強い植物です。 過保護に育ててメタボにするよりも、少しハングリーなくらいが、本来の野生の力を発揮し、甘くて味の濃い実をつけてくれます。
【今回の重要ポイント】
- スタートは焦るな:「ピンポン玉」サイズになるまで待て。
- 葉っぱと会話せよ:「羊の角」ならストップ、「バンザイ」ならGO。
- 選び方の鉄則:「トマト専用(リン酸多め)」を選ぶ。「観葉植物用」はNG。
- あげ方:「プランターの縁」に置いて、「水」で溶かす。
カレンダーの日付にとらわれず、毎朝トマトの顔色(葉の様子)を見て、「お、今日はお腹が空いてそうだな」「ちょっと食べすぎかな?」と判断できるようになれば、あなたはもう立派なトマトマスターです。




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