「わき芽を見つけたら、小さいうちにすぐ取るべし!」 これまでの記事で、私は口を酸っぱくしてそうお伝えしてきました。 真面目なあなたは、毎朝のパトロールで、脇から出てくる芽を容赦なく摘み取っていることでしょう。
でも実は……たった一つだけ、「残すべき最強のわき芽」が存在することをご存知ですか?
これまで「敵」だと思っていたわき芽の中に、たった一人だけ、主役になれるポテンシャルを秘めた「エリート」が紛れ込んでいるのです。
このエリートをあえて残し、メインの茎を2本にして育てるテクニック。 それが今回ご紹介する「2本仕立て(にほんじたて)」です。
成功すれば、単純計算で収穫量は1.5倍〜2倍! 1つの株から、食べきれないほどのトマトが収穫できる、夢のような栽培方法です。
「えっ、今さら残せと言われても…どれ!?」
大丈夫です。見分けるのはとても簡単。 今回は、ミニトマト栽培のレベルをぐっと引き上げる、お得な応用テクニックをご紹介します。 スペースと株の元気に自信がある方は、ぜひ挑戦してみてください!
初心者卒業! 「2本仕立て」ってなに?

通常、トマト栽培の基本は「1本仕立て(いっぽんじたて)」です。 これは、わき芽をすべて取り除き、メインの太い茎(主枝)1本だけを空に向かって伸ばしていく方法です。栄養が一点に集中するため、実が大きく育ちやすく、管理もシンプルで初心者向けです。
これに対して、今回紹介する「2本仕立て(にほんじたて)」とは、途中で元気の良いわき芽を1つだけ残して伸ばし、Yの字(またはVの字)のように2本の茎で育てていく方法です。
イメージとしては、高速道路の分岐点を作るようなものです。 1本の道で行くか、途中で2本の道に分けて交通量(収穫量)を増やすか、という違いです。
「ミニトマト」だからこそできる技
「栄養が分散して、実が小さくなっちゃうんじゃない?」 鋭い方はそう思うかもしれません。確かにその通りです。
そのため、実は「大玉トマト」にはあまり向きません。大玉トマトでこれをやると、栄養が足りずに実が大きくならなかったり、味が落ちたりと難易度が跳ね上がります。
しかし、「ミニトマト」や「中玉トマト」は話が別です。 彼らはもともと生命力が非常に強く、「もっと枝を伸ばしたい! 実をつけたい!」というエネルギーに溢れています。 そのため、枝を2本に増やしても十分に育ちますし、むしろ適度に勢いが分散されることで、暴れん坊な株がおとなしくなり、育てやすくなることもあるのです。
まさに、元気がありあまるミニトマトにぴったりの育成方法なのです。
メリットとデメリット、そして「挑戦するための条件」

「収穫量2倍!?」と聞くとすぐに飛びつきたくなりますが、少し冷静になりましょう。 2本仕立てはハイリターンな反面、少しリスクも伴います。メリットとデメリットを天秤にかけてみてください。
【メリット】
- 収穫量が大幅アップ: シンプルに、実がなる場所(花房)の数が1.5倍〜2倍に増えます。
- 背丈を抑えられる: 栄養が2方向に分散されるため、縦に伸びるスピードが少しゆっくりになります。「ベランダの天井にすぐ届いてしまう」という悩みがある方には、実は好都合な仕立て方です。
【デメリット】
- 肥料と水が激減する: 2人分の子どもを育てるようなものなので、とにかくお腹が減ります(肥料食い)。油断するとすぐに肥料切れを起こします。
- 場所を取る: 横に広がるため、隣の株との間隔が狭いと、葉が重なり合って風通しが悪くなり、病気の原因になります。
あなたの環境はOK? 「挑戦資格」チェックリスト
2本仕立ては、環境が整っていないと「共倒れ」して失敗します。 以下の3つの条件をクリアしているか、確認してみてください。
- 【土の量】 プランターは大きめですか? 根っこも広がるため、土の量が少ないとすぐに根詰まりや水切れを起こします。
- 〇: 大型プランター(土の容量20L以上)、深型プランター、地植え。
- ×: 標準的な丸鉢(10号以下)、浅いプランター、袋栽培の小さいもの。
- 【スペース】 横幅に余裕はありますか? Y字に開くため、株の左右にスペースが必要です。隣の株とギチギチに並べている場合は不向きです。
- 【株の元気】 苗はガッチリしていますか? 茎が太く、葉の色が濃い元気な株ならOK。ヒョロヒョロと徒長している弱い苗でやると、両方の茎が栄養不足で倒れてしまいます。
判定結果はいかがでしたか? もし一つでも「×」がある場合は、無理をせず「1本仕立て」を選びましょう。 1本仕立ての方が、失敗が少なく、一つ一つの実は確実に大きく甘くなります。「どっちが正解」ということはありませんよ!
【最重要】残すのは「第1花房のすぐ下」のわき芽だけ!

では、いよいよ実践です。 株をよく見て、選ばれし「エリートわき芽」を探しましょう。 ルールはたった一つ。
「一番最初に咲いた花(第1花房)」の、「すぐ下」にあるわき芽。
これだけです。これ以外は選びません。
なぜ「すぐ下」なのか?
トマトの体の構造上、花がついた場所のすぐ下から出るわき芽は、主枝と同じくらい太く、元気に育つという性質を持っています(栄養の流れが非常に良いため)。
これより下のわき芽は、地面に近すぎて病気になりやすく、勢いも弱いです。 逆にこれより上のわき芽は、成長が遅れます。
「第1花房のすぐ下の芽」だけが、唯一、主枝と対等なパートナーとして「ダブル主役」を張れる実力を持っているのです。
それ以外のわき芽はどうする?
この「エリート」を残すこと以外は、今までと同じです。 つまり、「エリートより下のわき芽」も、「エリートより上のわき芽」も、すべて取り除いてください。
「せっかくだから3本、4本にしちゃおうかな…」という浮気心は捨てましょう。 欲張ると栄養が分散しすぎて、すべてが中途半端な「実のならないジャングル」になってしまいます。
Q. 「あ! もう取っちゃいました!」という場合
「先生、ごめんなさい。昨日のパトロールで全部きれいに取ってしまいました…」
そんな真面目なあなた。安心してください、失敗ではありません! その場合は、無理に2本仕立てにするのはやめて、今回は堂々と「1本仕立て」で育てましょう。
「第1花房のすぐ下」以外のわき芽を無理やり伸ばしても、ひょろひょろと弱々しい枝にしかならず、結局いい実はつきません。 1本仕立ての方が管理は楽ですし、その分、特大の実が採れる可能性が高まります。 「取っちゃったなら、それでよし!」と割り切るのが、美味しいトマトへの近道です。
支柱はどうする? 重さに耐える「V字」誘引

2本仕立てにすると、当然ですが株の重さは倍になります。 今まで使っていた「真ん中に1本」の支柱だけでは、横に伸びようとする新しい枝を支えきれず、最悪の場合、風で根元からボキッと折れてしまいます。
そこで、支柱をもう1本追加して、物理的に補強してあげましょう。
おすすめは「クロス(X)留め」
プランターの土は畑の土より柔らかいため、ただ棒を2本平行に刺しただけではグラグラして不安定です。 そこで、2本の支柱を交差(クロス)させて固定するのが最強の方法です。
- 支柱を追加: 100円ショップなどで、メインの支柱と同じくらいの長さの支柱を買ってきます。
- 斜めに刺す: 新しい主枝(元・わき芽)が伸びていく方向に合わせて、斜めにブスッと刺します。
- 交差部分を縛る: メインの支柱と、新しい支柱が交わった部分(Xになっている場所)を、紐や結束バンドでガッチリと縛ります。
こうして2本の支柱が連結されると、驚くほど頑丈になり、強風が吹いてもビクともしなくなります。
思い切って「Vの字」に広げよう!
支柱の準備ができたら、枝を誘引(紐で結ぶ作業)していきます。 この時のコツは、「Vサイン」のように、左右に大きく広げることです。
- NGなやり方: 2本の枝を、真ん中の1本の支柱に無理やり束ねて縛る。
- これでは葉が密着して蒸れてしまい、病気の温床になります。
- OKなやり方: それぞれの支柱に沿わせて、外側へ、外側へと広げていく。
- 真ん中にぽっかりとスペースが空き、風通しと日当たりが抜群に良くなります。
最初は「こんなに広げて折れないかな?」と心配になるかもしれませんが、トマトの茎は柔軟性があるので大丈夫です。 太陽の光をたっぷり浴びられるよう、両手を広げて日光浴させてあげるイメージで誘引してあげてください。
2本仕立てにするなら「肥料」と「水」も増量せよ

めでたく2本仕立てに成功し、枝がぐんぐん伸びてきたら、一つだけ覚悟しなければならないことがあります。 それは、「消費スピードが倍になる」ということです。
人間で言えば、育ち盛りの子供が急に2人に増えたようなもの。 食費(肥料)も、飲み水も、今までと同じ量ではすぐに足りなくなってしまいます。
水切れのスピードが段違い
葉の枚数が倍になるということは、それだけ葉から水分が蒸発する量も倍増します。 特に真夏になると、「朝たっぷりあげたのに、夕方にはもう土がカラカラで、葉がシナっとしている…」なんてことが頻繁に起きます。
- 対策: 「水やりは1日1回」と決めつけず、土の表面が乾いていないかこまめにチェックしてください。真夏は朝と夕方の2回水やりが必要になることもあります。
肥料切れのサインを見逃さないで!
1本仕立ての時と同じペースで肥料をあげていると、途中でスタミナ切れ(肥料切れ)を起こす確率が高いです。 2本の茎を同時に成長させ、さらに倍の数の実を甘くするには、大量のエネルギーが必要です。
- 危険信号:
- 茎の先端が細くなってきた: パワー不足です。
- 葉の色が薄い黄緑色になってきた: 栄養不足です。
- 花が咲いても実がつかない: 体力温存モードに入ってしまっています。
これらのサインが出たら、すぐに追肥(ついひ)をしてエネルギーを補給してあげる必要があります。
「じゃあ、肥料はいつ、どれくらいあげればいいの?」 「あげすぎて逆に枯れたりしない?」
安心してください。次回は、収穫量アップの鍵を握る「追肥のタイミング」について、詳しく解説します。 2本仕立てにしたあなたも、1本仕立てのあなたも必見の内容です!
まとめ

いかがでしたか? 今回は、家庭菜園のレベルをぐっと引き上げる応用テクニック、「2本仕立て(にほんじたて)」について解説しました。
今まで「敵」として処分していたわき芽を、頼もしい「相棒」に変えるこの方法は、うまくいけば「採れすぎて困る!」という嬉しい悲鳴を上げることになるでしょう。
【今回の重要ポイント】
- ミニトマト・中玉トマト専用のテクニック(大玉は×)。
- 残すのは「第1花房のすぐ下」の元気な芽だけ。
- 肥料と水が倍必要になるので、お世話も手厚く!
「あちゃー、もう取っちゃってたよ…」という方も、ガッカリしないでくださいね。 記事の中でもお伝えした通り、基本の「1本仕立て」こそが、最も失敗が少なく、甘くて大きな実を作る王道です。 「今年は1本で確実に。来年は2本に挑戦!」という目標ができたと思えば、家庭菜園の楽しみがまた一つ増えたことになります。




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