「トマトの苗を植える時、プランターの真ん中に穴を掘って、真っ直ぐに植えようとしていませんか?」
ちょっと待ってください!その植え方、もしかしたら少し損をしているかもしれません。
今回ご紹介するのは、トマト農家やベテラン菜園家の間ではひそかに常識となっている裏ワザ、「斜め植え(別名:寝かせ植え)」です。
文字通り、大切に育てられた苗を「土の上に寝かせて、茎ごと埋めてしまう」という、初めて見る人には少しショッキングな植え方です。 「えっ、そんな乱暴なことして大丈夫なの!?」と不安になるかもしれません。
でも、安心してください。これには、トマトという植物だけが持つ「特殊能力」が関係しているのです。 この植え方をするだけで、地中の根の量が劇的に増え、真夏の猛暑にも負けない「最強のスタミナ株」に生まれ変わります。
勇気を出して、苗を寝かせてみませんか? 今年の夏、あなたのトマトの収穫量を底上げする「禁断の植え付けテクニック」を、手順を追って解説します。
なぜ「寝かせて」植えるの? トマトの驚くべき生命力

買ってきた元気な苗を、土の上に横倒しにして、茎ごと埋めてしまう……。 初めて見る人にとっては「可哀そうじゃないの!?」と目を疑う光景かもしれません。
でも、これはトマトの習性を利用した、理にかなった栽培方法なのです。
トマトの特技「どこからでも根が出る」
トマトの茎をよーく観察してみてください。細かい産毛(うぶげ)のようなものがびっしりと生えているのが見えませんか? 実はトマトには、「茎が土に触れると、そこから根っこが生えてくる」という驚くべき能力(不定根:ふていこん)が備わっています。
もともとトマトの原産地(アンデス山脈)では、地面を這うように育っていました。そのため、茎のどこからでも水分を吸収できるよう、体全体が「根っこ予備軍」になっているのです。
「斜め植え」で得られる3つのメリット
この能力を活かし、あえて茎を長く土の中に埋めることで、次のような大きなメリットが生まれます。
- 根の量が「倍」になる 普通に真っ直ぐ植えると、ポットの中にある根っこだけで水分を吸うことになります。しかし、茎を埋めれば、「元々の根」+「埋めた茎から出る新しい根」のダブルエンジンになります。吸水力・吸肥力が格段にアップし、実を大きくするためのエネルギーをたくさん取り込めるようになります。
- 夏の暑さに負けない「スタミナ」がつく 日本の夏はトマトにとって過酷です。根の量が少ないと、真夏の暑さですぐにバテてしまいますが、斜め植えで根を広範囲に張らせておけば、安定して水分を補給でき、最後まで枯れずに走り切るスタミナがつきます。
- 「ひょろひょろ苗」の救済になる もし手に入れた苗が、少し背が高くてひょろっとしている(徒長している)場合でも大丈夫。茎を深く埋めてしまうことで、地上の背丈を低く抑え、グラつかないガッチリした株に修正することができます。
つまり、斜め植えはトマトをいじめているのではなく、「本来の野性的なパワーを覚醒させる」ためのスイッチなのです。
勇気を出してやってみよう!「斜め植え」実践4ステップ

理屈がわかったら、いよいよ実践です。 「茎を折っちゃいそうで怖い!」と思うかもしれませんが、植え付け前のトマトの茎は意外としなやかです。優しく扱えば大丈夫。
以下の4ステップの手順通りに進めていきましょう。
【準備】まずは苗に水を吸わせる

作業を始める30分〜1時間前に、ポリポットのままバケツの水につけるなどして、苗にたっぷりと水を吸わせておきましょう。根鉢(土の塊)が崩れるのを防ぎ、植え付け後の回復が早くなります。
ステップ1: 下葉(したば)の処理

まず、土に埋まってしまう部分の葉っぱを取り除きます。 もし葉っぱがついたまま土に埋めると、そこから腐って病気(菌)が入る原因になります。
- やり方: 地面に近い方から数えて、下から2〜3枚の葉を、手でプチッと摘み取るか、ハサミで切り取ります。「かわいそう!」と思うかもしれませんが、ここが根っこに変わるので心を鬼にして取りましょう。
ステップ2: 穴ではなく「溝」を掘る

普通の植え方なら「深い穴」を掘りますが、斜め植えの場合は「スロープ状の溝」を掘ります。
- やり方: プランターの土に、手やスコップで長細い溝を作ります。
- 深さの目安: 根鉢(ポットの土)がすっぽり入る深さから、地上部に向かって浅くなるように。
- イメージは、苗のための「ベッドと枕」を作る感じです。頭(成長点)が出る部分を少し高く盛っておきます。
ステップ3: 苗を寝かせる(ここがポイント!)

いよいよ苗をベッドに寝かせます。
- やり方: ポットから優しく苗を抜き、ステップ2で作った溝にそっと置きます。
- 根鉢(根っこ): 深い方へ。
- 茎: 溝に沿わせる。
- 葉(先端): 地上に出るように、枕(土手)に立てかける。
⚠️注意:無理に曲げない! 茎を「直角」に曲げようとすると折れてしまいます。自然なカーブを描くように、優しく角度をつけてください。もし茎が硬い場合は、無理に深く埋めず、浅めの斜めでOKです。
ステップ4: 土を被せて「仮支柱」

最後に、寝かせた茎の上に土を優しく被せます。
- やり方:
- 茎が隠れるように土をかけ、手のひらで軽く押さえて土と茎を密着させます。
- そのままだと頭(葉の部分)が地面に垂れて泥がついてしまうので、「仮支柱(かりしちゅう)」を立てます。
- 短い棒や割り箸などを苗の近くに挿し、麻ひもやビニールタイで軽く留めて、頭が浮くように支えてあげましょう。
これで「斜め植え」の完了です! 地中深くに根の拠点ができ、茎からも新しい根が出る準備が整いました。
絶対に守るべき「花の向き」のルール

苗を溝に寝かせる時、もう一つだけ絶対に気にしなければならないことがあります。 それは、「花(またはつぼみ)がどっちを向いているか」です。
トマトという植物は、とても律儀な性格をしています。 実は、「最初の花が咲いた方向と、同じ方向にずっと花房(かぼう)をつけ続ける」という習性があるのです。(※品種や環境により多少ズレることもありますが、基本的には同じ向きに実がつきます)
鉄則: 花は必ず「手前(通路側)」に向ける!
苗をセットする時は、必ず花や蕾が「手前(自分が世話をする側)」を向くように調整してください。
もし、これを気にせず適当に植えてしまい、花が「後ろ(支柱や壁側)」を向いてしまうとどうなるでしょうか?
- 収穫が超・大変になる: 実が茎の裏側や、ベランダの柵の向こう側に隠れてしまい、収穫のたびに手を伸ばして苦労することになります。
- 実が潰れてしまう: トマトの実が大きくなった時、すぐ後ろに太い支柱があると、実と支柱がぶつかって変形したり、傷ついたりしてしまいます。
「未来の姿」を想像してセットする
苗を寝かせる時は、今の姿だけでなく、2ヶ月後の姿を想像してください。
真っ赤に熟したトマトが、鈴なりになって「さあ、食べてください!」と言わんばかりに手前にぶら下がっている……そんな光景を作るためには、この植え付けの瞬間の「向き」がすべてを決めます。
「花は手前! 花は手前!」 呪文のように唱えながら、苗の向きを微調整してあげてくださいね。
植え付け後の「水やり」と最初のケア

無事に苗をベッド(土)に寝かせたら、最後の仕上げです。 ここからの数日間は、苗が新しい環境に馴染むための「リハビリ期間」だと思って接してください。
① 最初は「これでもか!」というほど水をやる
植え付け直後の水やりには、単に水分補給をするだけでなく、「土と根(および埋めた茎)を密着させる」という重要な役割があります。
- やり方: ハス口(シャワー)を付けたジョウロで、優しく、しかし大量に水をかけます。
- 目安: プランターの底の穴から、濁った水がドバドバと流れ出てくるまでたっぷりと。「やりすぎかな?」と思うくらいで丁度いいです。これで土の中の隙間が埋まり、茎がしっかりと土に包まれます。
② 2〜3日は「明るい日陰」で休ませる
トマトは太陽が大好きですが、植え付け直後は別です。 根っこをいじられ、環境が変わったばかりの苗は、いわば「引っ越し疲れ」の状態。いきなり直射日光ガンガンの場所に置くと、吸水が追いつかず、しおれてしまうことがあります。
- 置き場所: 最初の2〜3日は、直射日光が当たらない「明るい日陰」や、軒下などに置いて休ませてください。
- 復活のサイン: 翌朝、葉っぱがシャキッと上を向いていれば、根が土に馴染んだ(活着した)証拠です。徐々に日向へ移動させましょう。
③ 【重要】肥料はまだあげない!
「大きく育ってほしい!」という親心から、植え付けと同時に肥料や栄養剤をあげたくなる気持ちはわかります。 しかし、それは逆効果です。
- 理由: 植え付け直後の傷ついた根に濃い肥料が触れると、「肥料焼け」を起こして根が枯れてしまうことがあります。それに、市販の「野菜用培養土」には、最初から十分な肥料(元肥)が入っています。
- タイミング: 最初の追肥(ついひ)は、一番花の実がピンポン玉くらいの大きさになってからで十分です。今は水だけでOKです。
以上で、植え付け作業は完了です。
まとめ: その「違和感」が、夏には「確信」に変わる

いかがでしたか? 「こんなに茎を埋めて本当に大丈夫?」と、ドキドキしながら作業されたかもしれません。
でも、安心してください。 1週間もすれば、土の中に埋めた茎からは猛烈な勢いで新しい根が生え始めます。 今は土の上にちょこんと顔を出しているだけの小さな苗ですが、地中では着々と「根の貯金」が増えていきます。
この貯金こそが、真夏の酷暑や水不足といったピンチの時に、あなたのトマトを救う命綱になります。 収穫の時期、「あの時、勇気を出して寝かせてよかった!」と思える日が必ず来ますよ。




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